オールドレンズを使ってみよう。 ロシア製レンズ「Helios-44-2 58mm F2.0」 [撮影に行こう]
皆さん、
明けましておめでとうございます。
スタッフ I です。
前記事でオールドレンズに初挑戦し、しばらく経ってしまいましたが、
ちょっと気になるレンズを見つけてしまい、再びオールドレンズを購入してしまいました。
というわけで、今回も購入したオールドレンズを紹介させていただきたいと思います。
オールドレンズとは、一般的に以下のようなレンズのことを言います。
ただ、上記条件を満たしていても、人によってはオールドレンズに分類しないものもあるでしょう。
詳しくは前の記事をご参照ください。
さて、今回購入いたしましたレンズはこちら!
その名も「Helios-44-2 58mm F2.0」!
このレンズは Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 のコピーレンズ (光学設計*1 などを模して作成されたレンズのこと) と言われており、その「独特の写り」もこのレンズは受け継いでおります。
本当は Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 の方を試してみたかったのですが、如何せんCarl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 は価格が高い!私が調べた時はヤフオクで 4 ~ 5 万前後で取引されておりました。その点この Helios-44-2 58mm F2.0 は 1 万円前後で取引されており、比較的入手しやすかったのでこちらにいたしました。
このレンズは様々な工場で製造されており、各工場によってもデザインが違うようです。
私が入手したレンズは BelOMO (ベラルーシ光学機械合同) のミンスク機械工場というところで作成されたレンズのようです。右画像のマークが BelOMO ミンスク機械工場製の証です!前のオールドレンズの時と同じく、キリル文字でレンズ名が刻印されている個体を選びました。カッコいいですよね!
さて、このレンズの最大の魅力は、先ほど少し触れましたその「独特の写り」です。
それがどのようなものかといいますと…、
この 「 ぐ る ぐ る ボ ケ 」 です !
ぐるぐるボケは非点収差*2と呼ばれるレンズ収差*3 が原因となって引き起こされる特殊なボケで、画像周辺のボケがぐるぐると渦を巻いたように写る現象を言います。一般的にこの現象が起こるレンズは、ボケが汚いと言われ、嫌われることが多いです。しかし、強烈に発生するぐるぐるボケは、とても印象的で写真の中に吸い込まれそうな気分になります。他のレンズでは味わえない魅力、まさにこのオールドレンズならではの魅力だと思います!
F値*4とぐるぐるボケ・解像感*5には下の図のような関係があります。
ぐるぐるボケの原因となっている非点収差を始め、多くの収差はF値を上げることである程度改善し、全体の解像感を上げることも出来ます (ただし、F値は上げ過ぎると、逆に解像感の低下を招くことが知られておりますので注意が必要です)。一方で、非点収差の改善によりぐるぐるボケは発生しにくくなってしまいます。そこでF値別に画像を撮り、どの設定が解像感とボケを両立できるかの参考にするため、今回はレンズ紹介も兼ねて解像感のチェックを行いました。
比較する被写体*6として2 mm間隔で線が引かれた方眼紙を用いました。
各F値にて端、中間、中心での画像 (上図赤枠で囲まれた部分) をそれぞれ比較しました。以下がその結果です。
F2.0
周辺光量*7落ちがひどく、端に行くほど解像感が著しく低下しています。
F2.8
周辺光量落ちが劇的に改善しましたが、端側での解像感はまだ低いです。
ぐるぐるボケを発生させるにはこの辺りが限界でしょうか?
F5.6
端側の解像感がかなり改善しました。できればこの位まで絞りたいです。
F8.0
中心の解像感が一番高く見えます。周辺もいいでしょう。ただし、ぐるぐるボケを発生させるのはむずかしくなります。
この結果を見ますと、解像感を考えると F5.6 まで絞りたいところです。しかしぐるぐるボケを発生させることを考えますと F2.0 ~ F2.8 を使用するのが現実的だと思います。ただ、F2.0 ~ F2.8 では、端と中間での解像感が低いので、ピント*8を合わせたい被写体 (主被写体) は中心付近に配置するのがよいでしょう。
さて、今度はどのような設定で撮影を行えばぐるぐるボケが発生するのかを調査していきましょう。この試し撮り 2 では、ぐるぐるボケの発生具合が F 値 を変化させて撮った場合とピント位置をずらして言った場合とでどのように変化していくかを見ていきます。
ぐるぐるボケの原因である非点収差は F 値が大きくなると発生しにくくなりますので、まずはF 値別にぐるぐるボケの発生具合を見ていきたいと思います。
ぐるぐるボケは主に背景のボケとして発生しますので、わざとピント位置をずらし、 画像全体にボケを発生させて撮影することにします。ピント位置は 1.5 m で固定して撮影しています。背景までの距離も固定で、おおよそ 8 ~ 9 m です (次の図を参照) 。この記事ではピントが合っている被写体のことを明確に示したい場合に、被写体のことを”主”被写体と呼びます。背景は被写体に含まれますが、ピントはあっていませんので、主被写体ではない点に注意してください。
結果は以下のようになりました。
F2.0
F2.8
F5.6
こうしてみますと、やはりF値が最も小さい F2.0 の写真が一番ぐるぐるボケの発生率が良いですね。F2.8 の写真でも一応 ぐるぐるボケが発生していますが、やはり F2.0 の写真くらいぐるぐるしていないと魅力が半減しているように感じます。F5.6 の写真はもうほとんどぐるぐるボケは発生していません。
結論としては、F値が最も小さい F2.0 で撮影するのが一番ぐるぐるボケを発生させやすく、魅力のある画が撮れるようです。周辺の写りを気にするのであれば、F2.8 も選択肢に入りますが、ぐるぐるボケ具合は弱くなります。素直に F2.0 で撮るのが良いでしょう。
最後の試し撮りはピント位置別のぐるぐるボケチェックです。ピント位置別に撮影した場合、ぐるぐるボケの見えかたがどう変わるかについて見ていきたいと思います。ピント位置が変わるということは主被写体 (ピントを合わせたい被写体) との距離が変わることを意味しています。ピント位置別のデータは主被写体との距離によってぐるぐるボケがどう変わるかの目安となります。
このチェックでは、F値を最もぐるぐるボケが出やすかった F2.0 で固定し、背景との距離も試し撮り 2 の時と同じく 8 ~ 9 m で固定した状態で、ピント位置のみをずらして撮影しました (次の図を参照)。
例によって、ぐるぐるボケだけを見るため、画像全体をぼかした状態で撮影しています。
結果は以下のようになりました。
ピント位置 1.5 m
ピント位置 2.0 m
ピント位置 3.0 m
ぐるぐるボケは画像端の方に点光源*9等、明るく細かい被写体が背景にあると分かりやすく発生してくれます。この写真のように木々の葉による反射などが写り込むような場面を撮ると再現しやすいでしょう。
さて、このピント位置別写真ですが、ピント位置が遠いものほど、このぐるぐるボケを見やすくしてくれる点光源のボケが、より小さく細かく大量に写り込んできます。このため、多少ピント位置が遠い (主被写体との距離が遠い) ほうが、ぐるぐるボケがわかりやすくなる印象です。ただ、逆にピント位置が遠すぎる (主被写体との距離が遠すぎる) と、今度はボケ自体が起きにくくなり、ぐるぐるボケも目立たなくなるので、注意が必要です。逆に近すぎると、今度は点光源のボケが細かくならず大きめに写ってしまうため、若干ぐるぐるボケが弱くなるようです。
ピント位置とぐるぐるボケの関係に関しては、主被写体と背景の距離関係に依存する部分が大きいかと思われますので、あくまで参考までに。
さて、それではいよいよこのレンズを使って撮影に行きましょう!今回は奥多摩湖の近くにある三頭山にて撮影を行いました!紅葉シーズンということで、あわよくば色づいたもみじを撮影したいと思いここに参りました。以下の写真はすべて Helios-44-2 58mm F2.0 で撮影し、SILKYPIX Developer Studio Pro6 にて現像処理しております。
奥多摩駅からバスに乗り、峰谷橋で下車し、浮橋 (通称ドラム缶橋) をわたって、三頭山を目指します。通常は東京都檜原都民の森から登り始める様なのですが、一度奥多摩湖を見てみたかったので…。
フォーカスを外し、意図的にぐるぐるボケを発生させて山道を撮影。なんでもない道でも、まるで異世界に迷い込んだかのような不思議な雰囲気の写真にしてくれます。
0.8 m ~ 1m 程度離して撮影するとぐるぐるボケが分かりやすく表れてくれました。山とこのレンズの相性はそこそこいいようで、木漏れ日と葉の反射が良い具合にぐるぐるボケを引き起こしてくれています。空と葉の色が混ざり合うような画になるのがたまりませんね!まだ紅葉は始まったばかりで、色づいた葉はまばらでした。
東京都檜原都民の森方向に下山中にも、色づいたモミジを撮影することに成功しました!上の写真はホワイトバランス*10の色温度*11を高めに設定して赤みを強調させています。
おまけです。
三頭山山頂からは運が良ければ富士山を望むことが出来ます (左)。いつかは富士山にも登ってみたいものです。東京都檜原都民の森の方から登れば三頭大滝 (右) を見ることもできます。お越しの際にはぜひご覧になってはいかがでしょうか?
このレンズ「Helios-44-2 58mm F2.0」でぐるぐるボケを撮る際の注意点をまとめると、
となります。
いかがでしたでしょうか?もし、このレンズとぐるぐるボケに興味を持っていただけたら幸いです。
ぐるぐるボケはそれだけで簡単に非現実的なシーンを演出できるとても魅力的な写真の要素だと思います。発生させるのはなかなかコツがいりますが、どうやって撮れば思い通りのボケを発生させることが出来るのかと思案しながら撮るのは中々面白いと感じました。写真を撮る醍醐味の一つだと思います。レンズの楽しみ方の一つを教えてくれる、そんなレンズとして、オールドレンズ「Helios-44-2 58mm F2.0」はいかがでしょうか?
*1 カメラレンズを構成しているレンズの種類、配置などを指します。
記事に戻る
*2 レンズの歪みなどが原因で、レンズの同心円方向と直径方向で焦点距離に違いが発生し、それぞれの方向でピントが合う位置がずれることにより発生する収差をいいます。この収差が発生していると、例えば縦線と横線を撮影した場合に、縦線にピントを合わせても横線がぼけてしまう場合があります。この収差は画像周辺ほど顕著に現れます。絞り込む(F値を大きくする)ことである程度改善します。
記事に戻る
*3 レンズなどを通して被写体をとらえた際に起きる、像のぼやけや歪みのことを言います。
記事に戻る
*4 レンズにはレンズを通ってくる光の量を調節するための装置として「絞り」というものがあり、その大きさを示す値のことを言います。別名「絞り値」。値が小さいほど光を多く取り込むことが出来ますが、収差が表れやすくなるという欠点もあります。F値を小さくすることで、写真の表現方法のひとつであるボケが表れやすくなる効果もあります。
記事に戻る
*5 撮影された像がどれだけ細部まで写っているかを表す言葉です。
記事に戻る
*6 写真に写されるものを被写体と言います。
記事に戻る
*7 レンズを通して撮影した際の、画像中心での明るさに対する周辺の明るさのことを言います。レンズによってはこの周辺光量が小さくなっていること (画像周辺部が暗くなっていること) があり、これを「周辺光量落ち」といいます。
記事に戻る
*8 オランダ語で焦点のことを指します。レンズを通ってきた光が集まる点のことを言います。被写体に正しくピントが合っていれば、その被写体をぼやけさせずにはっきりと写すことが出来ます。
記事に戻る
*9 画像上において発光部分の面積が小さく、ほとんど点とみなせるような光源のことを言います。
記事に戻る
*10 色温度が異なる光源の下でも白い被写体を正確に白く写るように補正する機能のことです。
記事に戻る
*11 光源の色を数値化した値のことを言います。色温度が低くければ光源の色は赤っぽくなり、高ければ青っぽくなります。ホワイトバランスにおける色温度は、この光源の色味を打ち消すように働くため、全く逆の意味になります。すなわち、色温度を低く設定すると、写真の色は青っぽくなり、高く設定すると赤っぽくなります。
記事に戻る
*12 開放F値とは、レンズの絞りを最大に開けた状態、一番光を取り込める状態のF値です。
記事に戻る
明けましておめでとうございます。
スタッフ I です。
前記事でオールドレンズに初挑戦し、しばらく経ってしまいましたが、
ちょっと気になるレンズを見つけてしまい、再びオールドレンズを購入してしまいました。
というわけで、今回も購入したオールドレンズを紹介させていただきたいと思います。
オールドレンズとは / オールドレンズを使うには?
オールドレンズとは、一般的に以下のようなレンズのことを言います。
- フィルムカメラ時代に使用されていたレンズ
- すでに製造が終了しているマウントのレンズ
ただ、上記条件を満たしていても、人によってはオールドレンズに分類しないものもあるでしょう。
詳しくは前の記事をご参照ください。
今回購入したレンズ、「Helios-44-2 58mm F2.0」の魅力
さて、今回購入いたしましたレンズはこちら!
その名も「Helios-44-2 58mm F2.0」!
このレンズは Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 のコピーレンズ (光学設計*1 などを模して作成されたレンズのこと) と言われており、その「独特の写り」もこのレンズは受け継いでおります。
本当は Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 の方を試してみたかったのですが、如何せんCarl Zeiss Jena BIOTAR 58mm F2.0 は価格が高い!私が調べた時はヤフオクで 4 ~ 5 万前後で取引されておりました。その点この Helios-44-2 58mm F2.0 は 1 万円前後で取引されており、比較的入手しやすかったのでこちらにいたしました。
このレンズは様々な工場で製造されており、各工場によってもデザインが違うようです。
私が入手したレンズは BelOMO (ベラルーシ光学機械合同) のミンスク機械工場というところで作成されたレンズのようです。右画像のマークが BelOMO ミンスク機械工場製の証です!前のオールドレンズの時と同じく、キリル文字でレンズ名が刻印されている個体を選びました。カッコいいですよね!
さて、このレンズの最大の魅力は、先ほど少し触れましたその「独特の写り」です。
それがどのようなものかといいますと…、
この 「 ぐ る ぐ る ボ ケ 」 です !
ぐるぐるボケは非点収差*2と呼ばれるレンズ収差*3 が原因となって引き起こされる特殊なボケで、画像周辺のボケがぐるぐると渦を巻いたように写る現象を言います。一般的にこの現象が起こるレンズは、ボケが汚いと言われ、嫌われることが多いです。しかし、強烈に発生するぐるぐるボケは、とても印象的で写真の中に吸い込まれそうな気分になります。他のレンズでは味わえない魅力、まさにこのオールドレンズならではの魅力だと思います!
試し撮り1 … 解像感チェック
F値*4とぐるぐるボケ・解像感*5には下の図のような関係があります。
ぐるぐるボケの原因となっている非点収差を始め、多くの収差はF値を上げることである程度改善し、全体の解像感を上げることも出来ます (ただし、F値は上げ過ぎると、逆に解像感の低下を招くことが知られておりますので注意が必要です)。一方で、非点収差の改善によりぐるぐるボケは発生しにくくなってしまいます。そこでF値別に画像を撮り、どの設定が解像感とボケを両立できるかの参考にするため、今回はレンズ紹介も兼ねて解像感のチェックを行いました。
比較する被写体*6として2 mm間隔で線が引かれた方眼紙を用いました。
各F値にて端、中間、中心での画像 (上図赤枠で囲まれた部分) をそれぞれ比較しました。以下がその結果です。
F2.0
端 | 中間 | 中心 |
---|---|---|
周辺光量*7落ちがひどく、端に行くほど解像感が著しく低下しています。
F2.8
端 | 中間 | 中心 |
---|---|---|
周辺光量落ちが劇的に改善しましたが、端側での解像感はまだ低いです。
ぐるぐるボケを発生させるにはこの辺りが限界でしょうか?
F5.6
端 | 中間 | 中心 |
---|---|---|
端側の解像感がかなり改善しました。できればこの位まで絞りたいです。
F8.0
端 | 中間 | 中心 |
---|---|---|
中心の解像感が一番高く見えます。周辺もいいでしょう。ただし、ぐるぐるボケを発生させるのはむずかしくなります。
この結果を見ますと、解像感を考えると F5.6 まで絞りたいところです。しかしぐるぐるボケを発生させることを考えますと F2.0 ~ F2.8 を使用するのが現実的だと思います。ただ、F2.0 ~ F2.8 では、端と中間での解像感が低いので、ピント*8を合わせたい被写体 (主被写体) は中心付近に配置するのがよいでしょう。
試し撮り2 … ぐるぐるボケチェック
さて、今度はどのような設定で撮影を行えばぐるぐるボケが発生するのかを調査していきましょう。この試し撮り 2 では、ぐるぐるボケの発生具合が F 値 を変化させて撮った場合とピント位置をずらして言った場合とでどのように変化していくかを見ていきます。
Part 1 : F値別チェック
ぐるぐるボケの原因である非点収差は F 値が大きくなると発生しにくくなりますので、まずはF 値別にぐるぐるボケの発生具合を見ていきたいと思います。
ぐるぐるボケは主に背景のボケとして発生しますので、わざとピント位置をずらし、 画像全体にボケを発生させて撮影することにします。ピント位置は 1.5 m で固定して撮影しています。背景までの距離も固定で、おおよそ 8 ~ 9 m です (次の図を参照) 。この記事ではピントが合っている被写体のことを明確に示したい場合に、被写体のことを”主”被写体と呼びます。背景は被写体に含まれますが、ピントはあっていませんので、主被写体ではない点に注意してください。
結果は以下のようになりました。
F2.0
F2.8
F5.6
こうしてみますと、やはりF値が最も小さい F2.0 の写真が一番ぐるぐるボケの発生率が良いですね。F2.8 の写真でも一応 ぐるぐるボケが発生していますが、やはり F2.0 の写真くらいぐるぐるしていないと魅力が半減しているように感じます。F5.6 の写真はもうほとんどぐるぐるボケは発生していません。
結論としては、F値が最も小さい F2.0 で撮影するのが一番ぐるぐるボケを発生させやすく、魅力のある画が撮れるようです。周辺の写りを気にするのであれば、F2.8 も選択肢に入りますが、ぐるぐるボケ具合は弱くなります。素直に F2.0 で撮るのが良いでしょう。
Part 2 : ピント位置別チェック
最後の試し撮りはピント位置別のぐるぐるボケチェックです。ピント位置別に撮影した場合、ぐるぐるボケの見えかたがどう変わるかについて見ていきたいと思います。ピント位置が変わるということは主被写体 (ピントを合わせたい被写体) との距離が変わることを意味しています。ピント位置別のデータは主被写体との距離によってぐるぐるボケがどう変わるかの目安となります。
このチェックでは、F値を最もぐるぐるボケが出やすかった F2.0 で固定し、背景との距離も試し撮り 2 の時と同じく 8 ~ 9 m で固定した状態で、ピント位置のみをずらして撮影しました (次の図を参照)。
例によって、ぐるぐるボケだけを見るため、画像全体をぼかした状態で撮影しています。
結果は以下のようになりました。
ピント位置 1.5 m
ピント位置 2.0 m
ピント位置 3.0 m
ぐるぐるボケは画像端の方に点光源*9等、明るく細かい被写体が背景にあると分かりやすく発生してくれます。この写真のように木々の葉による反射などが写り込むような場面を撮ると再現しやすいでしょう。
さて、このピント位置別写真ですが、ピント位置が遠いものほど、このぐるぐるボケを見やすくしてくれる点光源のボケが、より小さく細かく大量に写り込んできます。このため、多少ピント位置が遠い (主被写体との距離が遠い) ほうが、ぐるぐるボケがわかりやすくなる印象です。ただ、逆にピント位置が遠すぎる (主被写体との距離が遠すぎる) と、今度はボケ自体が起きにくくなり、ぐるぐるボケも目立たなくなるので、注意が必要です。逆に近すぎると、今度は点光源のボケが細かくならず大きめに写ってしまうため、若干ぐるぐるボケが弱くなるようです。
ピント位置とぐるぐるボケの関係に関しては、主被写体と背景の距離関係に依存する部分が大きいかと思われますので、あくまで参考までに。
山×ぐるぐるボケ
さて、それではいよいよこのレンズを使って撮影に行きましょう!今回は奥多摩湖の近くにある三頭山にて撮影を行いました!紅葉シーズンということで、あわよくば色づいたもみじを撮影したいと思いここに参りました。以下の写真はすべて Helios-44-2 58mm F2.0 で撮影し、SILKYPIX Developer Studio Pro6 にて現像処理しております。
奥多摩駅からバスに乗り、峰谷橋で下車し、浮橋 (通称ドラム缶橋) をわたって、三頭山を目指します。通常は東京都檜原都民の森から登り始める様なのですが、一度奥多摩湖を見てみたかったので…。
フォーカスを外し、意図的にぐるぐるボケを発生させて山道を撮影。なんでもない道でも、まるで異世界に迷い込んだかのような不思議な雰囲気の写真にしてくれます。
0.8 m ~ 1m 程度離して撮影するとぐるぐるボケが分かりやすく表れてくれました。山とこのレンズの相性はそこそこいいようで、木漏れ日と葉の反射が良い具合にぐるぐるボケを引き起こしてくれています。空と葉の色が混ざり合うような画になるのがたまりませんね!まだ紅葉は始まったばかりで、色づいた葉はまばらでした。
東京都檜原都民の森方向に下山中にも、色づいたモミジを撮影することに成功しました!上の写真はホワイトバランス*10の色温度*11を高めに設定して赤みを強調させています。
おまけです。
三頭山山頂からは運が良ければ富士山を望むことが出来ます (左)。いつかは富士山にも登ってみたいものです。東京都檜原都民の森の方から登れば三頭大滝 (右) を見ることもできます。お越しの際にはぜひご覧になってはいかがでしょうか?
まとめ
このレンズ「Helios-44-2 58mm F2.0」でぐるぐるボケを撮る際の注意点をまとめると、
- ぐるぐるボケを引き立たせるならば開放F値*12で撮るべし。
- 開放で撮ると周辺の解像感は著しく低下する。主被写体は中心付近に置くべし。
- 主被写体と背景との距離でぐるぐるボケの見え方が変わる。理想的な距離は自分で探すべし。
となります。
いかがでしたでしょうか?もし、このレンズとぐるぐるボケに興味を持っていただけたら幸いです。
ぐるぐるボケはそれだけで簡単に非現実的なシーンを演出できるとても魅力的な写真の要素だと思います。発生させるのはなかなかコツがいりますが、どうやって撮れば思い通りのボケを発生させることが出来るのかと思案しながら撮るのは中々面白いと感じました。写真を撮る醍醐味の一つだと思います。レンズの楽しみ方の一つを教えてくれる、そんなレンズとして、オールドレンズ「Helios-44-2 58mm F2.0」はいかがでしょうか?
*1 カメラレンズを構成しているレンズの種類、配置などを指します。
記事に戻る
*2 レンズの歪みなどが原因で、レンズの同心円方向と直径方向で焦点距離に違いが発生し、それぞれの方向でピントが合う位置がずれることにより発生する収差をいいます。この収差が発生していると、例えば縦線と横線を撮影した場合に、縦線にピントを合わせても横線がぼけてしまう場合があります。この収差は画像周辺ほど顕著に現れます。絞り込む(F値を大きくする)ことである程度改善します。
記事に戻る
*3 レンズなどを通して被写体をとらえた際に起きる、像のぼやけや歪みのことを言います。
記事に戻る
*4 レンズにはレンズを通ってくる光の量を調節するための装置として「絞り」というものがあり、その大きさを示す値のことを言います。別名「絞り値」。値が小さいほど光を多く取り込むことが出来ますが、収差が表れやすくなるという欠点もあります。F値を小さくすることで、写真の表現方法のひとつであるボケが表れやすくなる効果もあります。
記事に戻る
*5 撮影された像がどれだけ細部まで写っているかを表す言葉です。
記事に戻る
*6 写真に写されるものを被写体と言います。
記事に戻る
*7 レンズを通して撮影した際の、画像中心での明るさに対する周辺の明るさのことを言います。レンズによってはこの周辺光量が小さくなっていること (画像周辺部が暗くなっていること) があり、これを「周辺光量落ち」といいます。
記事に戻る
*8 オランダ語で焦点のことを指します。レンズを通ってきた光が集まる点のことを言います。被写体に正しくピントが合っていれば、その被写体をぼやけさせずにはっきりと写すことが出来ます。
記事に戻る
*9 画像上において発光部分の面積が小さく、ほとんど点とみなせるような光源のことを言います。
記事に戻る
*10 色温度が異なる光源の下でも白い被写体を正確に白く写るように補正する機能のことです。
記事に戻る
*11 光源の色を数値化した値のことを言います。色温度が低くければ光源の色は赤っぽくなり、高ければ青っぽくなります。ホワイトバランスにおける色温度は、この光源の色味を打ち消すように働くため、全く逆の意味になります。すなわち、色温度を低く設定すると、写真の色は青っぽくなり、高く設定すると赤っぽくなります。
記事に戻る
*12 開放F値とは、レンズの絞りを最大に開けた状態、一番光を取り込める状態のF値です。
記事に戻る
コメント 0